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千葉地方裁判所 昭和41年(手ワ)17号 判決 1966年5月31日

原告 ムサシノ化学工業株式会社

右訴訟代理人弁護士 小神野淳一

同 平松久生

同 曽我部吉正

被告 東宝スチロン株式会社

右訴訟代理人弁護士 持田五郎

主文

被告は原告に対し金百二十七万三千八百九十五円及びこれに対する昭和四一年三月六日より支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は全部被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮りにこれを執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として、被告は原告に対し昭和四〇年七月二三日

(一)  金額三十五万円、支払期日昭和四〇年一〇月三〇日、支払地、振出地共に船橋市、支払場所株式会社協和銀行船橋支店

(二)  金額三十万千百八十円、支払期日昭和四〇年一一月二三日、支払地、振出地、支払場所はいずれも(一)に同じ

(三)  金額六十五万二千四百十五円、支払期日昭和四〇年一二月一一日、支払地、振出地、支払場所はいずれも(一)に同じ

なる約束手形三通を振出交付し、原告は現に右手形三通の所持人であるが、被告は右手形金の支払をなさず、僅かに右手形金の支払保証をなしたる訴外蓮見長一郎が、二回に合計三万円を支払ったのみであるので、原告は被告に対し、手形の合計金額より右三万円を控除した、百二十七万三千八百九十五円、及び本件訴状送達の日の翌日たる昭和四一年三月六日より、手形法所定の年六分の割合による利息金の支払を求むと述べ

被告の抗弁に対し、

一、本件手形三通が、被告主張の如き事情の下に振出交付を受けたことは認むも、原告が被告に振出交付した約束手形三通は、いずれも支払ずみである。

二、被告会社が、その主張の頃倒産したこと、訴外蓮見長一郎が、被告会社の代表取締役であることは認むるが、本件三通の手形金につき、右蓮見長一郎と原告会社間において、債務者の交替による更改契約をなしたとの点は否認する。

もっとも、訴外橋本信義が昭和四一年一月一〇日金十万円、同月三一日金一万五千円を、それぞれ原告に交付したこと、訴外蓮見長一郎が原告に対し、本件手形金債務百三十万三千八百九十五円につき、昭和四一年三月三一日以降毎月末日限り一ケ月金一万五千円づつ弁済することを約した事実はある。しかしながら、原告が右橋本信義から受領した合計十一万五千円は、原告が被告に金融を得せしめる目的で手形を振出交付したのは、右橋本の要請によるものであったため、被告会社の倒産につき痛く責任を感じた結果、被告の原告に対する本件手形金債務の担保として、消費寄託したものであって、本件手形金債務の内入弁済として受領したものではない。従って被告が本件手形金債務を完済したときは、原告は右寄託金を、訴外橋本に返還する義務を負担しているものであり、このことは、その後たる、昭和四一年二月一五日原告と訴外蓮見長一郎間に締結され、右橋本が連帯保証をなした。保証債務分割弁済契約書にも右十一万五千円を控除しない、金百三十万三千八百九十五円全額についてなされている事によっても明かである。

又訴外蓮見長一郎が本件手形債務につき、原告との間に前述のような分割弁済契約を締結したのは、被告が本件手形を振出した昭和四〇年七月二三日頃、その代表取締役の地位にあった蓮見長一郎は原告の要請によって本件手形金債務につき、個人として民法上の連帯保証をなしたものであるが、その後被告の倒産により、本件手形金が期日に弁済を受けることが不可能となったため、右蓮見に対し保証債務を迫った結果であり、同人にこれといった資産もないため、不本意ながら極めて長期に亘る分割弁済を認めたものである。

以上のように右保証債務分割弁済契約は、原告と蓮見長一郎個人間に締結されたものであり、本件手形金債務が更改されたものではない。このことは、原告が依然として本件手形の所持人であることと、訴外蓮見長一郎が右分割弁済契約の締結後たる昭和四一年三月一日、被告が原告に対し本件手形金債務を負担していることを認めた上、その担保として、溌泡スチロール成型機(半自動成型機)一式を原告に引渡している事実等からして明かである。従って被告の抗弁は理由がないと述べ、

立証として、甲第一乃至第六号証を提出し、原告会社代表者、厚谷直軌の訊問の結果を援用し、乙第一号証の成立を認むると述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、被告が原告に対し、原告主張の約束手形三通を振出し交付し、原告が同手形を所持していることは認むるも、被告に右手形金の支払義務があるとの点は否認する、と述べ、

抗弁として、本件約束手形三通は、いずれも訴外橋本信義の紹介で被告が他より金融を得るため、原告から振出交付を受けた、約束手形三通の見返りとして、同手形の金額に、各その振出日から支払日まで日歩八銭の割合による利息を加算して振出したものである。ところが被告は昭和四〇年九月中倒産したため、右橋本において昭和四〇年一〇月中金十一万五千円を弁済した外、本件約束手形三通全部について、被告会社の代表者である訴外蓮見長一郎において、原告と債務者の交替による更改をなした上、右手形金債務を消費貸借の目的に改め、昭和四一年三月三一日より毎月末日金一万五千円づつを割賦弁済することとし、右橋本がその支払を連帯保証したものである。

従って本件手形金債務は右更改契約により消滅したものであるから原告の本訴請求は失当である、と述べ、

立証として、乙第一号証を提出し、被告会社代表者蓮見長一郎の訊問の結果を援用し、甲号各証の成立を認むと述べた。

理由

被告が原告に対し、本件約束手形三通を振出交付し、原告が現にその所持人であることは、被告の認むるところである。そこで本件約束手形債務は、原、被告間で消費貸借の目的に更改されたため、消滅した旨の被告の主張につき判断するに、被告会社代表者蓮見長一郎の訊問の結果は後記証拠に比照して措信することができないし、その他被告の右主張を認むる証拠は存在しないのみか、却って成立に争のない甲第四号証第五号証、乙第一号証、原告会社代表者厚谷直軌の訊問の結果によれば、被告主張の金銭貸借弁済契約は、原告と訴外蓮見長一郎個人との間に締結されたものであることを認むることができるし、右認定を覆すに足る証拠は存在しない。従って右金銭貸借弁済契約は、原告主張のように、被告の原告に対する本件手形金債務の支払を個人たる蓮見長一郎が保証したものであり、それにより原告の被告に対する本件手形金債権の存在に何等の影響なきものと認定するのが相当であって、被告は原告に対し本件手形金の支払をなす義務があるものというべきである。

そこで訴外橋本信義が原告に支払った合計十一万五千円が、本件手形金債務の内入弁済としてなされたとの点につき判断するに、これを認むる証拠は存在しないので、右主張は認むることができない。<以下省略>。

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